歯科口腔外科学卒業試験予想問題解答(H10年)

 

和田先生編

 

1.歯原性角化嚢胞の診断基準と臨床的特徴を述べよ。

(定義)
嚢胞壁に角化性重層扁平上皮を有する嚢胞。臨床所見からは原始性嚢胞。

(診断)
被覆上皮に角化が見られ、さらに病理学的に上皮は普通上皮突起を持たず、非常に薄い。

角化層はしばしば波打つ。

基底細胞層は境界明瞭で、円柱、立方両細胞で構成される。

有棘層は非常に少なく、基底層から表層まで細胞の直接移行が見られる。

有棘層が存在するときは多くの細胞が空胞化している。

上皮の角化は圧倒的に錯覚化タイプである。

嚢胞壁はしばしば薄く、普通非炎症性である。

(臨床的特徴)
10〜20歳代、男性が多い

下顎智歯部から下顎枝部に好発

顎骨が膨隆する

羊皮紙様感

波動

嚢胞の内容物はチーズ様あるいは雪花菜(おから)状物質

多発性のものもある。再発率が高い。

 

2.歯原性嚢胞を分類し、その特徴を述べよ

・歯根嚢胞
もっとも発生頻度が高い。X線で単胞性あるいは多胞性の骨透過像。詳しくは「和田4」参照。

・原始性膿胞
歯原性角化嚢胞の形を取ることが多い。再発が多く、10〜20代に好発。
X線で単胞性あるいは多胞性の骨透過像。詳しくは「和田1」参照。

・含歯性嚢胞
歯冠形成過程中のエナメル上皮の変性により生じたもので、嚢胞壁に種々の程度に発育した歯冠を認めるのが特徴。
上顎では前歯部、下顎では智歯部及び第一小臼歯部に好発する。
X線で埋没歯の歯冠を含む境界明瞭な骨透過像。

・角化性石灰化性歯原膿胞
嚢胞壁の上皮に壊死、石灰化が見られる。エナメル上皮に似た基底細胞内層に好酸性の大型細胞(ghost cell)の出現とその石灰化を特徴とする。
好発部位は前歯部から第一大臼歯部。X線で境界明瞭時に不明瞭な嚢胞状骨透過像、石灰化物の存在により不透過像を見る

・萌出嚢胞
粘膜下組織に組織液または血液が萌出期歯牙の歯冠周囲に貯留するもの。
内容が血液の時は紫色、濃青色を呈し、萌出血腫といわれる。
歯の萌出によって自然に消失する。

   

3.口腔領域に発生する嚢胞(様)病変のうち、上皮裏装のないものを列記せよ。

・単純性骨嚢胞

・脈瘤性嚢胞

・粘液嚢胞

 

4.歯根嚢胞の成立過程を簡単に記せ。

歯根嚢胞…最も発生頻度の高い嚢胞

・う蝕の進行

・感染根管を続発し、慢性炎症により歯根肉芽腫ができる。

・これにマラッセの残遺上皮(歯根周囲にある、歯胚から残遺した上皮)が迷入して嚢胞壁を形成。

・嚢胞化(嚢胞壁の内面は不規則な厚さの重層扁平上皮でおおわれ、炎症細胞が浸潤 している。予後は一般に良好。)

 

5.歯原性腫瘍のうち発生頻度の高いものを2つ記せ。

1位 エナメル上皮腫 ameloblastoma

2位 歯芽腫 odontoma

 

6.歯原性良性腫瘍を構成成分によって3つに分類し、それぞれを代表する疾患名を記せ。

・歯原性上皮成分(の腫瘍で、間葉成分は伴わない)
・・・エナメル上皮腫

・歯原性上皮成分と歯原性間葉成分(の腫瘍で歯牙硬組織の有無は問わない)
・・・エナメル上皮線維腫 Ameloblastic fibloma

・歯原性間葉成分(の腫瘍で、歯原性上皮成分の有無は問わない)
・・・歯原性線維腫 Odontogenic fibloma

 

7.エナメル上皮腫の臨床的、組織学的特徴を記せ

腫瘍実質が歯胚上皮すなわちエナメル上皮に由来する歯原性良性腫瘍で、20〜30歳代に好発する。下顎角部に好発し、顎骨の膨隆が認められる。

エナメル上皮腫は臨床的に嚢胞性エナメル上皮腫と充実性エナメル上皮腫に分けられる。嚢胞性エナメル上皮腫は羊皮紙様感、波動などがあり、穿刺により淡黄色の内容液が得られる。

X線上は顎骨内の単房性あるいは多房性透過像としてみられる。組織学的には実質がエナメル器に似た構造を持つ濾胞状の胞巣を形成する濾胞型と、歯堤に似た歯原性上皮の索状増殖が網状構造を示す叢状型が基本型で、その他棘細胞型、基底細胞型、顆粒細胞型がある(WHO分類)。

 

 

森田先生編

1.各自下顎骨折の部位を設定し、その部位での骨片の変位について説明せよ。

一般的大骨折片は外下方に、小骨折片は内上方に転位する。(以下のうち1つで可?)

・側頤(おとがい)部骨折(犬歯、小臼歯部の骨折) 28.7%
 骨折線が斜め方向に走ることが多く、その際には大骨折片は下前方向に小骨折片は上後方向に牽引される。小骨折片を上方に牽引するのは咬筋や内側翼突筋、側頭筋であり、後方に牽引するのは顎舌骨筋である。

・関節突起骨折  15.5%
 頤部、体部などに加わった外力が介達性に加わって生じる。関節突起頚部(下顎頚)が折れて、下顎頸は外突翼突筋によって内方にに牽引され、関節包を破って脱臼する。

・下顎角部骨折  15.5%
 骨折線は智歯部から下顎角に向かって斜めに走ることが多く、小骨折片は咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋により上内方へ牽引される。

 

2.口腔悪性腫瘍時における頸部郭清術の種類をあげその適応基準を示せ

・全頸部郭清
治療的根治頸部郭清 N(+)に対して行う場合
予防的根治頸部郭清 N(-)に対して行う場合

・部分的頸部郭清
部分的頸部郭清術 側頸部三角の一部など限局性の範囲

・機能的頸部郭清術
wide fieldで手術を行うが機能を保持、残存するように行う方法

N(+)である場合は治療的根治全頸部郭清術を行うべきである。部分的頸部郭清は術者の腕によるところが大きいらしい?!

原発巣のコントロールが不能で頸部転移の症状よりも原発巣の方に予後不良となる優先権がある場合、全身状態不良で手術に耐えられない場合は、郭清の適応はない。

 

3.口腔癌が疑われる病変の生検の目的、意義について述べよ。

深部の腫瘍宿主境界部(最深部は分化度、細胞分裂活性、DNAパターンからみて腫瘍実質の性状を代表する部位)を十分に含む生検を行って、より多くの情報を収集し、治療前に腫瘍の性状を総合的に把握、それによって治療方針、予後が推定できる。(助教授談)

 

4.開咬について説明せよ。

上下額歯列弓の垂直関係の異常に起因する、不正咬合。通常、中心咬合時に、臼歯部が咬合するにも関わらず、上下額前歯部切縁が矢状的に接触しないものいう。局所的には臼歯部に生じることもある。歯槽性のものと骨格性のものがあり、間隙部により、傾斜開咬、前歯部開咬、側方部開咬などに分けられる。

傾斜開咬:最後方臼歯のみで咬合し、他の歯は全て咬合しないもの。下顎枝の発育不全、顎関節突起損傷、関節炎、顎関節強直症などが原因。

前歯部開咬:顎関節の発育不全、下顎骨の発育障害によって生じる。また、指しゃぶり、弄舌癖などの悪習慣が原因となることもある。

側方部開咬:大臼歯、小臼歯のみの開咬で、まれである。下顎前突症に見られることがある。弄舌癖による歯の移動、歯の萌出異常、舌血管腫が原因となることがある。

治療は、弄舌癖の除去、high pull chin cap(臼歯部bite blockの併用)やマルチプラケット装置による矯正治療、外科的治療(Dingman法、Kole法)がある。(下線部は「歯科学生のための口腔外科アトラス」、その他は医学大事典から)

 

5.中顔面骨折を外力の力学的面から分類せよ。

・Le Fort type
上顎歯槽部-外鼻錐体下部への外力による。特に

1型 歯・歯槽部への直達外力によって生じる。
2型 不明。
3型 顔面の正面から鼻骨、頬骨部に強い力が加わると起こりやすい。

・頬骨
直達外力による。眼窩下縁中央部と前頭頬骨縫合部に生じやすい。

・鼻骨
一側からの外力.......斜鼻
正面からの外力.......鞍鼻

・Blowout fracture
眼窩内の軟組織へ外力が働き眼窩内圧が上昇して発生

 

1.歯胚の構造と歯牙硬組織形成のメカニズム(関わる細胞)

エナメル器

外エナメル上皮、内エナメル上皮、エナメル髄

歯乳頭

象牙質細胞(象牙質)、歯髄

歯小嚢

セメント質、歯槽骨、歯根膜

・蕾状期
 1列ずつの弓状の歯堤が結合織の中へ延びてくる。歯堤の先に乳歯の数に一致する10カ所の部分的上皮の増殖分化が起こり歯胚を形成する。これをエナメル器といい、蕾状である。

・帽状期
 エナメル器が発育し、歯胚の形は帽状になり、歯乳頭、歯小嚢が出現してくる。この時期に乳歯の歯胚の舌側に永久歯の歯胚の形成が始まる。

・鐘状期
 乳歯歯胚はさらに増殖し、鐘状を呈し、内エナメル上皮と外エナメル上皮に分かれ、両細胞間にエナメル髄が形成される。

・石灰化期
 内エナメル細胞の内側で歯乳頭の最外層を構成する細胞が象牙質細胞となり、象牙質を形成する。象牙質、エナメル質の形成が進み、歯冠が形づくられ、さらに象牙質の形成は続き、歯根が形成される。歯根の形成と共にセメント質、歯根膜、歯槽骨の形成も始まり、歯は萌出を始める。

 

2.乳中切歯の歯胚形成時期と下記の各歯牙の萌出時期

乳中切歯の歯胚形成は胎生7週

(萌出時期)

下顎乳中切歯 6ヶ月

第2乳臼歯 20〜24ヶ月

第1大臼歯 6〜7年

第2大臼歯 11〜13年

 

3.唇顎口蓋裂の発生は、胎生期のいつ頃、どの部分の障害によるか。

唇裂(一次口蓋:胎生7〜8週)

口蓋裂(二次口蓋:胎生12週)

 

4.う蝕症の成り立つメカニズムとう蝕の3大要因について

Streptococcus mutans+ショ糖・不溶性グルカン形成・虫歯をつくりやすい歯垢形成(プラーク形成)・乳酸桿菌などの酸の産生・プラーク内に蓄積・歯の脱灰・う蝕の発生

3大要因…歯質、食物、細菌

 

5.う蝕の進展に伴う、急性、慢性経過を取る継発疾患について

急性歯炎

根尖性歯周組織炎 歯根膜炎のことでC4のこと

歯槽膿瘍 感染が歯髄内を経て歯根炎の外に及んだ化膿性炎症

蜂窩織炎 特に下顎の大臼歯が原因。硬結を起こし、呼吸困難、致命的になる場合有り。

顎骨骨髄炎 顎骨内部に広がる骨髄炎

歯性上顎洞炎 第1大臼歯を中心とした前後の歯が原因。蓄膿の患者に多い。

慢性歯炎

歯根肉芽腫 骨が肉牙で置き換えられて細菌が住み着く

歯根嚢胞 炎症性起源による嚢胞。顎骨に嚢胞を作る最も多いもの。

内歯瘻 感染が歯髄内を経て歯根尖の外に及んだ場合

外歯瘻 内歯瘻がさらに顎骨、筋を経て顔面皮膚に瘻孔を形成しているもの

 

6.う蝕の全身への影響について

歯性病巣感染(心内膜炎、腎炎、リウマチ)

 

7.歯周組織に含まれるものは何か?

歯肉、歯小嚢(歯根膜、セメント質、歯槽骨)

 

8.妊娠及び薬物長期投与による歯肉の変化

・妊娠エプーリス
歯肉に限局して発症した腫瘤状増殖物。妊娠による内分泌変化、循環の変化により起こる。有茎性、肉芽腫様、易出血性。

・歯肉増殖症
フェニトイン系(ゲランティン)ニフェジピン(アダラート)の長期投与で起こる。

 

9.慢性辺縁性歯周炎の成り立ちとその主症状

プラークがたまる・歯周組織の炎症・歯周ポケット形成(歯槽が歯根骨から離れる)

・歯槽骨の吸収、壊死

(主症状)歯肉と歯根が離れる、歯がぐらつく、歯肉の発赤、腫脹、排膿

 

10.デンタルプラーク及び歯石の本態について

・デンタルプラーク(歯苔・歯垢)

 ミュータンスレンサ球菌+砂糖(ショ糖)・水に不溶性のグルカン合成・歯垢

 好発部位:下顎前歯裏側(舌下腺の開口部)、上顎大臼歯(耳下腺の開口部)

・歯石  唾液中のCa成分がプラークに沈着して硬くなったもの

 

24.口腔発生において1次口蓋と2次口蓋とはどこか?

切歯孔(foramen incisium)と犬歯と第2門歯間

 

25.唇顎口蓋裂の各型の発生頻度の性差について

口唇裂 ♂>♀(♂≒♀) 25%

顎口蓋裂 ♂>♀ 50%

口蓋裂 ♂<♀ 25%

 

26.口唇形成術の手術法の代表的なものを2つあげよ。

MIllard法

Tennison法

Abbe法

 

27.ピエール・ロバン症候群とは何か?

口蓋裂に下顎発育不全を合併したもの。そのため、舌は後退し、呼吸不全を起こす。

症状は、おとがいの後退、舌根沈下、呼吸不全、嘔吐反射(-)。

軟口蓋裂を伴うことが多く、他に心奇形、肺炎を合併し、1歳前後に死亡する。